有価証券の評価損の損金算入について

有価証券の評価損が認められる場合

法人が所有する有価証券について、次のような場合には、原則として、帳簿価額と時価との差額など一定の金額を限度として評価損の計上が認められます。

ただし、完全支配関係がある子会社で清算中の法人等の株式等に対し計上する評価損については、損金の額に算入されません。

なお、この評価損を計上した場合は、時価法による評価損益と異なり、翌事業年度でのいわゆる洗替計算は必要ありません。

法人の所有する有価証券について次の事実が生じた場合で、その法人がその有価証券の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したとき

(1) 取引所売買有価証券、店頭売買有価証券、取扱有価証券及びその他価格公表有価証券等の一定の有価証券(いずれも企業支配株式に該当するものを除きます。)について、その価額が著しく低下したことにより、その価額が帳簿価額を下回ることとなったこと。

(2) 上記(1)以外の有価証券について、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したことにより、その価額が帳簿価額を下回ることとなったこと。

(3) 上記(2)に準ずる特別の事実

法人の所有する有価証券について、更生計画認可の決定があったことにより、会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定に従って評価換えをしてその帳簿価額を減額したとき

有価証券を所有する法人について次の事実が生じた場合で、その法人が売買目的有価証券及び償還有価証券以外の一定の有価証券の価額について再生計画認可の決定があった時の価額により行う評定などの評定を行っているとき

確定申告書に評価損明細の記載があり、かつ、評価損関係書類の添付がある場合に限ります。

(1) 再生計画認可の決定があったこと。

(2) 上記(1)に準ずる事実

株価が 50%相当額を下回る場合における株価の回復可能性の判断基準

法人の所有する上場有価証券等(※1)について、その価額が著しく低下し、帳簿価額を下回ることとなった場合で、法人が評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、帳簿価額とその価額との差額までの金額を限度として評価損の損金算入が認められます。

※1 取引所売買有価証券、店頭売買有価証券、取扱有価証券及びその他価格公表有価証券(いずれも企業支配株式に該当するものを除きます。)

この場合の「価額が著しく低下したこと」については、①上場有価証券等の事業年度末の価額がその時の帳簿価額のおおむね 50%相当額を下回ることになり、かつ、②近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうものとされています(法基通 9-1-7)。

このように、評価損の損金算入が認められるためには、株価の回復可能性に関する検証を行う必要がありますが、どのような状況であれば、「近い将来回復が見込まれない」と言えるかが問題となります。

株価の回復可能性の判断のための画一的な基準を設けることは困難ですが、法人の側から、過去の市場価格の推移や市場環境の動向、発行法人の業況等を総合的に勘案した合理的な判断基準が示される限りにおいては、税務上その基準は尊重されることとなります。

有価証券の評価損の損金算入時期としては、これらの合理的な判断がなされる事業年度で損金算入が認められることとなりますので、必ずしも、株価が過去2年間にわたり帳簿価額の 50%程度以上下落した状況でなければ損金算入が認められないということではありません。

なお、法人が独自にこの株価の回復可能性に係る合理的な判断を行うことは困難な場合もあると考えられます。

このため、発行法人に係る将来動向や株価の見通しについて、専門性を有する客観的な第三者の見解があれば、これを合理的な判断の根拠のひとつとすることも考えられます。

具体的には、専門性を有する第三者である証券アナリストなどによる個別銘柄別・業種別分析や業界動向に係る見通し、株式発行法人に関する企業情報などを用いて、当該株価が近い将来回復しないことについての根拠が提示されるのであれば、これらに基づく判断は合理的な判断であると認められるものと考えられます。

監査法人のチェックを受けて継続的に使用される形式的な判断基準

所有する上場株式の事業年度末における株価が帳簿価額の 50%相当額を下回る場合におけるその株式の評価損の損金算入に当たっては、株価の回復可能性についての検証を行う必要があります。

監査法人によるチェックを受け、継続的に使用することを前提として、この株価の回復可能性の検証を、過去一定期間における株価動向に関する一定の形式基準に基づいて行うことができるのでしょうか。

策定した株価動向に関する一定の形式基準に基づく判断は、それが、評価損の損金算入が与える繰延税金資産への影響といった税効果会計等の観点から、株主や債権者などの利害関係者の保護のために財務情報の信頼性を確保する責務を有する独立の監査法人のチェックを受けたものであれば、客観性が確保されていると考えられます。

さらに、この基準が継続的に使用されるのであれば、そのような基準に基づく判断は恣意性が排除されていると考えられることから、税務上の損金算入の判断としても合理的なものと認められます。

法人が繰延税金資産を含む財務諸表の監査を受けている場合には、上場株式の評価損の損金算入の基準が繰延税金資産に対して影響を与えるものであることから、その監査の過程で、監査法人によりその合理性についての検討が行われているものと考え
られます。

このため、財務諸表の監査を経ているものであれば、この損金算入の基準に対するチェックを受けたものと同様に取り扱うことができます。

ただし、この基準が税務上の観点から明らかに不合理である場合、損金算入の基準として認められないことは言うまでもありません。

ところで、企業会計上は、「時価のある有価証券」については、時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には、合理的な反証がない限り、取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないとして、評価損の計上(減損処理)を行わなければならないこととされています。

この企業会計上の減損処理の基準と、監査法人のチェックを受けて継続的に使用される形式基準は、その内容を異にすることは想定されるところであり、ある事業年度において企業会計上の減損処理を行った場合であっても、その評価損は損金算入の対象とはならないことがあります。

このように、企業会計上の減損処理の基準と継続的に使用される形式基準の内容が異なることによって生ずる減損処理と評価損の損金算入の時期の差は、それぞれの基準を定めている目的そのものが異なることによるものであり、企業会計上の減損処理を行った事業年度において、その評価損の損金算入を行わなくてはならないということではありません。

なお、株価の回復可能性の判断をするための形式基準を新規に策定した場合、または、現在使用している形式基準を変更した場合、新たな形式基準に基づく判断はその基準を自社の監査を担当する監査法人によるチェックを受けながら継続的に使用することを前提とすれば、新規策定又は変更を行った最初の事業年度から合理的なものとして取り扱うことができます。

ただし、自社の収益状況に合わせて、この基準の使用を取りやめたり、正当な理由なく変更したりするような場合は、合理的な判断と認められないことは言うまでもありません。

「自社の監査を担当する監査法人によるチェック」は、税効果会計等の観点から、株主や債権者など利害関係を有する第三者の保護のために財務情報の信頼性を確保する責務を有する独立の監査法人や公認会計士が行うその責務に裏付けられた監査の一環として行われるものを指しています。

このため、監査法人等による関与であっても、その関与が自社の経営についてのコンサルタント業務のみを行うものや、会計参与や税理士による関与のように、利害関係を有する第三者の保護のために行われる監査には当たらないものは、これに該当しません。

株価の回復可能性の判断の時期

株価の回復可能性の判断は、あくまでも各事業年度末時点において合理的な判断基準に基づいて行うものです。

このため、例えば、当事業年度末においては将来的な回復が見込まれないと判断して評価損を計上した場合に、翌事業年度以降に状況の変化(株価の上昇など)があったとしても、そのような事後的な事情は当事業年度末時点における株価の回復可能性の判断に影響を及ぼすものではなく、当事業年度に評価損として損金算入した処理を遡って是正する必要はありません。

株価の回復可能性の判断基準に該当した場合の評価損否認金の取扱い

評価損否認金の額(過去の事業年度において有税で減損処理した金額をいいます。)のある上場株式について、その後の事業年度で、税務上評価損を計上できる状況になった場合には、評価損否認金の額も含めて、その事業年度の損金の額に算入することが認められます。

なお、この場合の具体的な取扱いは、次のとおりとなります。

① 評価損否認金の額については、その事業年度において申告調整により損金の額に算入した金額を、評価損として損金経理したものとして取り扱うこととされています。

② 評価損として損金算入の対象となる金額は、その事業年度末における帳簿価額と株価との差額となります。

(注)税務上、評価損として損金算入される金額は、あくまでも損金経理した金額に限られますので、会計上減損処理していないものは含まれません。

評価損否認金については、過去の事業年度において評価損として損金経理が行われていること、会計上、一旦損金経理されたものについて改めて評価損を計上させる必要性も認められないこと等の理由から、実際に税務上の合理的な判断基準に該当することとなった事業年度において、申告調整により損金の額に算入した場合には、この処理をもってその事業年度において評価損として損金経理したものとして取り扱うこととされています。

この場合の税務上の合理的な判断基準に該当することとなった事業年度における損金算入額は、その事業年度末における株価を基礎として算定することとなりますので、その事業年度末の帳簿価額と株価との差額に達するまでの金額となります。

例えば、当事業年度末の株価が、直近の減損処理による会計上の帳簿価額を上回るものの依然として帳簿価額の 50%相当額を下回っている場合は、当事業年度末の帳簿価額と株価との差額が損金算入の対象となります。

ただし、税務上、評価損として損金算入される金額は、あくまでも損金経理した金額に限られますので、会計上減損処理をしていない金額については、損金算入することは認められないことになります。

例えば、当事業年度末の株価が、直近の減損処理による会計上の帳簿価額を更に下回るものの、当事業年度において会計上減損処理がされない場合は、帳簿価額と直近の減損処理後の会計上の帳簿価額との差額が損金算入の対象となります。

この記事を書いた人

mtbcpa

東京都文京区の税理士・公認会計士です。
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