法人成りする時ときには、事業用資産を移転したり、個人事業最終年度の申告をしたり、法人成り後の官公庁への手続きがあったりと、しなければならない手続きがたくさんあります。
個人事業の後始末
どこで個人から法人へ切り替えるか、まずは、法人の決算期・設立日・事業開始日を決める必要があります。
法人の設立日と事業開始日は、同一日でなくても問題ありません。
ただし、個人の廃業日と法人の事業開始日は原則として一致させます。
商品や有形固定資産などを売却する場合は、その日に合わせます。
事業開始日以降は、事業に関する収益と費用は、全て法人に帰属します。
商品の売却による所得は、事業所得となりますので、廃業までに行う必要があります。
一方、有形固定資産などの売却は、譲渡所得になりますので、廃業日を超えても問題ありません。
手続きが終了すれば、所轄税務署に必要な書類を提出します。
個人事業を廃止した場合に提出する書類
- 個人事業の廃業等届出書
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書
- 消費税の事業廃止届出書
事業廃止から1か月以内に提出しましょう。
なお、「給与支払事務所等の廃止届出書」は、個人事業の廃業等届出書を提出するので、提出不要になります。
事業用資産の移転の方法
個人から法人へ移すべきものは、事業をするのに必要な資産も負債もすべてが対象になります。
現預金、在庫、有形固定資産、無形固定資産などの資産や、借入金などの負債です。
金融機関からの借入金については、事業からの利益が返済原資となるため、個人で支払を続けるわけにはいきません。
そのため、法人で引き継ぐ必要がありますが、普通、契約の名義変更は行われません。
債務引継契約を個人と法人の間で締結し、議事録等に残しておく必要があります。
事業用資産の移転に関しては、基本的に時価による引継ぎとなります。
売却
売却価額は時価によります。
有形固定資産や無形固定資産は、簿価を時価とみなすことで問題ありません。
土地は、固定資産税評価額や路線価、公示価格などを参考にします。
在庫については、通常売買される価額のおおむね70%相当で売買します。
贈与
個人が法人へ時価の2分の1に満たない金額で譲渡すると、時価によって譲渡があったとみなされます。
賃貸借
有料で貸す場合は、個人は受取賃料、法人は支払賃料となります。
貸している維持費や減価償却費と同額程度の受取賃料にすれば、確定申告の必要はありませんが、同族会社の役員とその親族などの場合、同族会社から賃料を受け取っていれば必ず申告が必要になります。
使用貸借
不動産や自動車など名義変更に手間がかかるのであれば、無料で法人に貸す方法も考えられます。
この場合、維持費などについて、法人で負担することに問題はありません。
ただこの場合、使用貸借契約を締結し、説明できるようにしておく必要があります。
現物出資
現物出資は、モノで出資することをいいます。
現物出資は、原則、裁判所選任の検査役の検査が必要です。
公認会計士や税理士による価額の妥当性について証明を受けた場合は、検査役検査は不要になりますが、手間はかかります。
個人事業の最終年度の申告について
個人事業を廃業した場合、所得税及び消費税は、通常の確定申告と同様、翌年の期限までに提出します。
一方、事業税だけについては、廃業の日から1か月以内の申告となっています。
事業税の提出先は、各都道府県の個人事業税の窓口となります。
廃業年度の確定申告は、法人に事業を移すまでの「事業所得」、事業資産の売却による「譲渡所得」、事業資産の賃貸による「不動産所得や雑所得」、法人からの「給与所得」など、いろいろな所得を合算して申告することになります。
最終年度の事業所得を計算する上での注意点は以下になります。
小規模事業者の現金主義の特例
小規模事業者には、事務手続の煩雑さを考慮して、現金主義での収入や経費の計上が特例として認められています。
事業税の見込計上
事業税は、支払った日の属する事業年度の損金となります。
事業廃止のあと支払を行うので、経費として使えないのは不都合なため、廃業年度の事業税については見込額を計上できます。
また、事業主控除については、月割りで計算します。
減価償却費
期首の簿価で売却するのが原則になりますが、売却時点までの減価償却費を月割りで計上しても差し支えないと規定されています。
一括償却資産の必要経費算入
個人から法人へ資産を売却する場合、3年均等償却を選択したものについては、取得価額のうちまだ償却されていない部分が残りますが、この価額で売買処理するのではなく、すべて廃業した年の経費とし、法人へは無償で譲渡することになります。
事業廃止年度の純損失
事業所得が赤字となった場合、通常であれば前年分の所得税を限度に繰戻し還付を行うか、翌年以降3年の黒字と相殺します。
他に損益通算の対象となる所得がある場合、事業所得の赤字を損益通算できることは、事業廃止以降も同じです。
このため、法人成り後の役員報酬と、繰り越された損失を相殺することは可能となります。
また、廃止事業年度に限っては、その前年に純損失があり、事業廃止年度の黒字と相殺できないときは、前々年の所得税を限度に繰戻し還付請求ができます。
いずれも継続して青色申告書を提出する場合に限られます。
繰戻しは、「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を確定申告期限内に提出する必要があります。
事業を廃止した場合の必要経費の特例
事業にかかる費用または損失で、事業を廃止しなければその年分以後の所得の計算上必要経費となるべき金額が生じた場合には、その廃止した年分の必要経費に算入するという特例があります。
例えば、貸倒損失です。その場合、訂正する意味で、「更生の請求」をすることになります。
退職金
法人成り後、相当期間内に退職金支払があった場合は、個人事業主時代に対応する部分は、個人事業主の経費として処理されます。
この場合は、個人の最終事業年度の減額更生を行うことになります。
減額更生の期間は、5年となっています。
この期間を超えて法人から退職金を支払う場合、全額が法人の経費となります。
なお、個人事業のときに退職給与規定等を有し、その規定に基づく適正な額を支給者全員に通知する、支給対象者全員から退職所得申告書に自署押印を求めるなど、債務として確定していると認められる場合は、個人事業最終年度に退職金として経費計上することができます。
法人成りした後の税務署への届出
法人設立にあたり、提出を検討する主な届出書は以下のようなものがあります。
- 法人設立届出書(税務署)
- 法人設立届出書(都道府県および市町村)
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
- 消費税の各種届出書
- 青色申告の承認申請書
- 棚卸資産の評価方法の届出書
- 減価償却資産の償却方法の届出書
- 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書
- 事前確定届出給与に関する届出書
法人設立届出書
設立の日以後2か月以内に提出します。
定款と登記事項証明書を添付します。
源泉所得税関係の届出書
会社として、役員や従業員、パートなどに給料を支払うのであれば、会社は「源泉徴収義務者」となります。
その場合、「給与支払事務所等の開設届出書」の届出が必要となります。
給与の支払対象者が10名未満であれば、「源泉所得税の納期の特例」といった半年に一度の納付も選択できます。
消費税の各種届出書
法人成りのメリットは、消費税の免税事業者となることでもあります。
しかし、設立初年度の設備投資や、個人事業での固定資産などの買取りによって、消費税の課税事業者になることが有利になる場合は、「消費税課税事業者選択届出書」を、設立初年度中に提出する必要があります。
消費税課税事業者を選択した場合、原則2年間課税事業者であることが必要なため、慎重に検討する必要があります。
青色申告の承認申請書
届出期限は、設立の日以後3月を経過した日と当該事業年度終了の日のいずれか早い日の前日です。
開業届と一緒に提出するのがよいです。
給与事務
源泉所得税の納付
天引きした所得税は、翌月10日までに納付するのが原則です。
納期の特例を選択すれば、半年に一度の納付となります。
年末調整
毎年最後の給料か翌年最初の給料で従業員の年末調整を行います。
そして、「給与支払報告書」を1月末までに、従業員の住む市区町村に提出します。
法定調書の提出
主な法定調書は以下の通りとなります。
- 給与所得の源泉徴収票
- 退職所得の源泉徴収票・特別徴収票
- 報酬、料金、契約金および賞金の支払調書
- 法定調書合計表
社会保険、労働保険の手続き
社会保険の加入手続
法人は被保険者1人以上で、強制適用事業所となります。
加入には、以下の届が必要です。
- 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
いずれも事実発生から5日以内に、管轄の年金事務所に提出します。
労働保険の名称変更手続
法人成りの場合、個人と法人が同一の事業主と認められます。
この場合、名称変更手続で済みます。
以下の届を提出します。
- 労働保険:労働保険名証所在地等変更届
- 雇用保険:雇用保険事業主事業所各種変更届